Geminiのグラウンディングとは? 〜 RAGとの違いから具体的な実装方法まで徹底解説 〜

Geminiのグラウンディングとは? 〜 RAGとの違いから具体的な実装方法まで徹底解説 〜

生成AI、特に大規模言語モデル(LLM)がビジネスの現場で急速に普及する中、多くの企業がその活用方法を模索しています 。しかし、LLMは学習データに含まれない最新の情報や、社内文書のような機密性の高い独自データにアクセスできないという根本的な制約を抱えています 。この制約が、事実に基づかない情報を生成する「ハルシネーション」を引き起こし、回答の信頼性を損なう大きな要因となっています 。

この課題を解決し、生成AIを真にビジネスで活用可能なツールへと進化させる技術が「RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)」です 。RAGは、LLMを外部の信頼できる情報源に接続し、その情報に基づいて回答を生成させることで、出力の正確性と信頼性を飛躍的に向上させます

目次

グラウンディングとは?―生成AIの信頼性を支える基盤技術

生成AIの出力を「事実」に根付かせる仕組み

生成AIにおけるグラウンディングとは、モデルの出力を検証可能な情報源に接続する能力を指します。モデルに特定のデータソースへのアクセスを提供することで、グラウンディングはその出力を指定されたデータに「つなぎ留め」、AIが事実に基づかないコンテンツを創作する可能性を低減させます。

この技術が不可欠である背景には、LLMのハルシネーション問題があります。ハルシネーションは、LLMが不完全または欠陥のある膨大なデータでトレーニングされる過程で、誤ったパターンを学習したり、現実世界の文脈を欠いたりすることが原因で発生します。グラウンディングは、この問題に対する強力な解決策として機能します。LLMが自身の静的で内部的な知識に頼るのではなく、提供された信頼性の高いコンテキストに基づいて推論を行うように強制することで、いわばAIに専用の「ファクトチェッカー」を与えるようなものです。

そのメカニズムは、LLMが理解する抽象的な言語と、具体的な現実世界のデータ(一般公開されているウェブ情報や企業独自のプライベートな情報源など)とを橋渡しすることにあります。このプロセスを通じて、モデルは現実世界のデータを効果的に活用し、より正確で信頼性の高い応答を生成することが可能になるのです。

追加)グラウンディングがもたらす3つの主要なメリット

グラウンディングは単にハルシネーションを抑制するだけでなく、エンタープライズアプリケーションに不可欠な3つの重要な価値をもたらします。

1. 信頼性の向上 (Trust & Auditability)

グラウンディングは、応答の根拠となった情報源へのリンクを提供することで、監査可能性を確保します。これにより、ユーザーは提示された情報を容易に検証でき、AIシステムに対する信頼が醸成されます。特に、金融やヘルスケアといった規制の厳しい業界では、すべての決定や応答の根拠を追跡できることが極めて重要です。APIからの応答には、多くの場合、出典元のURIやタイトルを含むgroundingMetadataオブジェクトが含まれており、これを用いて出典を明記することが可能です。

2. 最新情報へのアクセス (Timeliness & Relevance)

LLMは、そのトレーニングデータが収集された時点までの知識しか持たないという「知識のカットオフ」問題を抱えています。グラウンディングは、Google検索のようなリアルタイムの情報源や、頻繁に更新される社内データベースにモデルを接続することで、この制約を克服します。これにより、AIは最新の出来事に関する質問に対しても、正確で時宜を得た回答を提供できるようになります。

3. 専門性の付与 (Context & Personalization)

汎用的なLLMを、企業の独自データ(社内wiki、製品マニュアル、CRMデータなど)にグラウンディングさせることで、そのモデルは極めて専門的で文脈に応じた回答を生成する能力を獲得します。これは、一般的なモデルでは決して生成不可能な、特定の組織に特化した知識です。この能力を活用することで、顧客一人ひとりに合わせたハイパーパーソナライズドマーケティング、専門的なカスタマーサポート、そして高度な社内ナレッジマネジメントシステムの構築が可能になります。

これらのメリットを総合すると、グラウンディングがLLMの役割を根本的に変革する技術であることがわかります。従来のLLMは、その巨大で静的な内部知識に依存する「万物に通じた賢者」として扱われがちでした。しかし、このアプローチでは、情報の出所が不明瞭な「ブラックボックス」問題が常に付きまといます。

グラウンディングは、このパラダイムを転換させます。モデルは検証可能な外部の知識ベースを使用することを強制され、その主要なタスクは事実を「思い出す」ことから、ユーザーの質問を理解し、提供されたコンテキストの中から関連情報を見つけ出し、その情報のみに基づいて一貫性のある回答を統合する「高度な推論・統合エンジン」へと変化します。この変化は、エンタープライズ環境におけるLLMの評価基準を「モデルがどれだけ多くのことを知っているか」から「我々が提供する特定のデータをどれだけうまく推論し、活用できるか」へとシフトさせ、セキュリティ、データガバナンス、そして特化型AIエージェントの開発に深遠な影響を与えます。

グラウンディングとRAG(検索拡張生成)の決定的な違い

AIの文脈において、「グラウンディング」と「RAG」という用語はしばしば同じ意味で使われますが、両者の間にはアーキテクチャ設計において重要な違いが存在します。この違いを正確に理解することは、効果的なAIシステムを構築する上で不可欠です。

RAGはグラウンディングを実現する「アーキテクチャ」である

両者の関係を明確に定義すると、グラウンディングは「応答を事実に根付かせる」という目的概念であり、一方でRAG(Retrieval-Augmented Generation)は、その目的を達成するための具体的かつ強力なアーキテクチャ・パターンまたはフレームワークです。実際に、Google Cloudの公式ドキュメントでも、企業の独自データにGeminiをグラウンディングさせるためにRAGを使用する、と言及されています。

RAGのアーキテクチャは、典型的には以下の3つのステップで構成されます。

  1. 検索 (Retrieve): ユーザーからの質問(クエリ)を受け取ると、まず検索コンポーネントが外部の知識ベース(例:企業のドキュメントが格納されたベクトルデータベース)を探索し、質問に最も関連性の高い情報断片(チャンク)を見つけ出します。
  2. 拡張 (Augment): 次に、検索された情報断片を元のユーザーの質問と組み合わせ、コンテキストが豊富になった新しいプロンプトを構築します。
  3. 生成 (Generate): 最後に、この拡張されたプロンプトをLLMに入力します。LLMは提供されたコンテキスト情報に基づいて応答を生成し、結果としてその応答は検索された事実に「グラウンディング」されたものになります。

追加)アーキテクチャとユースケースから見る違い

すべてのRAGはグラウンディングの一形態ですが、すべてのグラウンディングがRAGであるとは限りません。例えば、プロンプト内に直接少量の参考情報を埋め込む手法も単純なグラウンディングですが、これにはRAGの核となる動的な「検索」ステップが欠けています。この微妙ながらも決定的な違いを理解するために、以下の比較表が役立ちます。

この表は、しばしば混同される2つの用語を明確に区別するための参照ガイドとして機能します。この区別は学術的なものに留まらず、実際のシステム設計に直接影響を与えます。開発者は、単純なグラウンディングで十分な場合と、ベクトルデータベースを含む本格的なRAGパイプラインが必要な場合を的確に判断できるようになります。

Table 1: グラウンディング vs. RAG 詳細比較

特徴グラウンディング (Grounding)RAG (検索拡張生成)
定義 (Definition)生成AIの出力を検証可能な情報源に紐付けるという概念または目的ユーザーの質問に基づき、外部知識ベースから動的に情報を検索し、その情報を基に回答を生成する具体的なアーキテクチャ
コアプロセス (Core Process)根拠となるデータ(コンテキスト)をLLMに提供し、それに基づいて回答を生成させる。検索 (Retrieve)拡張 (Augment)生成 (Generate) の3ステップからなる動的なプロセス。
主なユースケース (Use Cases)静的: プロンプト内に直接少量の参考情報を埋め込む。 動的: RAGアーキテクチャを実装して、大規模なデータソースから情報を参照する。最新情報が必要なQ&A、社内ナレッジ検索、パーソナライズされた顧客対応など、動的な情報検索が不可欠なあらゆるシナリオ。
Google Cloudでの実装例Google Searchツールを有効にする (GoogleがRAGを代行)。 プロンプトに直接テキストを貼り付ける。Vertex AI Searchをデータストアとして設定し、Geminiと連携させる。

関係性の整理

両者の関係性を要約すると、以下のようになります。この整理は、技術選定やアーキテクチャ設計の際の共通言語として機能します。

  • グラウンディング = 生成AIの出力を根拠となるデータに基づいて生成する「概念」
  • RAG = “動的な検索” + グラウンディング(生成AIの出力を根拠となるデータに基づいて生成する)を実現する「仕組み」

追加)Google Cloud (Vertex AI) におけるグラウンディング実践ガイド

Google CloudのVertex AIプラットフォームは、Geminiモデルを用いたグラウンディングを実装するための強力かつ統合された環境を提供します。ここでは、具体的な設定方法からコードによる実装までをステップバイステップで解説します。

グラウンディングの2大ソース:Google検索とVertex AI Search

Vertex AIでは、主に2つの情報源を用いてグラウンディングを実装できます。これらはそれぞれ異なるユースケースに対応しています。

  1. Grounding with Google Search:一般に公開されているリアルタイムのウェブデータを情報源とする場合に利用します。この方法では、モデルがユーザーのプロンプトを分析し、検索が必要かどうかを判断し、検索クエリの生成から結果の統合まで、ワークフロー全体を自動的に処理します。これは、いわば一般のインターネットを対象とした「RAG as a Service」と考えることができます。
  2. Grounding with Vertex AI Search:企業の内部文書やウェブサイト、非構造化ドキュメント(PDF、HTMLなど)、構造化データといった、プライベートで独自の情報源にグラウンディングさせるための、典型的なエンタープライズRAG実装です。これにより、組織固有の知識に基づいた応答生成が可能になります。

【チュートリアル】Vertex AI Searchで独自データストアを構築する

ここでは、企業の独自データをグラウンディングのソースとして利用するために、Vertex AI Searchでデータストアを構築する手順を解説します。

  1. 事前準備:まず、課金が有効になっているGoogle Cloudプロジェクトが必要です。コンソールでVertex AI APIとAI Applications API(Vertex AI Searchの旧称)を有効化してください。
  2. IAM権限の設定:グラウンディングサービスがデータストアにアクセスできるよう、適切なIAMロールをサービスアカウントに付与する必要があります。具体的には、Discovery Engine 閲覧者 (roles/discoveryengine.viewer) や、検索を実行するための discoveryengine.servingConfigs.search 権限が含まれるロールが必要です。
  3. データストアの作成:Google CloudコンソールのVertex AI Searchページに移動し、「新しいデータストア」を作成します。データソースとして主に2つの選択肢があります。
    • ウェブサイト: グラウンディング対象としたいウェブサイトのURLを指定します。含めるURLパターンや除外するURLパターンを細かく設定でき、「高度なウェブサイトのインデックス登録」を有効にすることで、より高品質なインデックス作成が可能です。
    • Cloud Storage: PDF、HTML、TXT、CSVなどの非構造化ドキュメントを格納したGoogle Cloud Storage (GCS) バケットを指定します。ドキュメントの解析方法(例:レイアウトを保持するlayout parser)やチャンキング(文書の分割)オプションもここで設定できます。
  4. 検索アプリの作成とDataStoreIDの取得:作成したデータストアは、「アプリ」に紐付けることで検索やグラウンディングに利用可能になります。データストア作成後、その詳細ページで データストアID を確認し、控えておきます。このIDは後のAPI呼び出しで必要になります。

【コードで実践】Gemini APIでグラウンディングを実行する

データストアの準備が整ったら、Vertex AI SDK for Pythonを使って、コードからグラウンディング機能を呼び出します。

セットアップと初期化

まず、SDKをインストールし、プロジェクトIDとロケーションを指定してクライアントを初期化します。

Python

import vertexai
from vertexai.generative_models import GenerativeModel, Tool
from vertexai.preview import grounding

# プロジェクトIDとロケーションを設定
PROJECT_ID = "your-gcp-project-id"
LOCATION = "us-central1"
vertexai.init(project=PROJECT_ID, location=LOCATION)

パターン1: Google検索によるグラウンディング

最新情報に関する質問のように、ウェブ検索が有効なケースで利用します。Tool.from_google_search_retrieval() を使ってツールを定義し、モデルの generate_content メソッドに渡します。

Python

# Google検索ツールを定義
google_search_tool = Tool.from_google_search_retrieval(
    google_search_retrieval=grounding.GoogleSearchRetrieval()
)

# モデルを初期化
model = GenerativeModel("gemini-1.5-pro-001")

# グラウンディングを有効にしてプロンプトを送信
prompt = "2024年のUEFA欧州選手権で優勝したのはどの国ですか?"
response = model.generate_content(
    prompt,
    tools=[google_search_tool],
)

print(response.text)

このコードを実行すると、モデルは内部知識だけでなく、Google検索で最新の試合結果を調べた上で回答を生成します。グラウンディングなしの場合と比較すると、その正確性の違いは明らかです。

パターン2: Vertex AI Searchによるグラウンディング

社内規定に関する質問など、独自データストア内の情報を参照させたい場合に利用します。先ほど取得した データストアID を用いてツールを定義します。

Python

# Vertex AI Searchツールを定義
DATA_STORE_ID = "your-data-store-id"
data_store_path = f"projects/{PROJECT_ID}/locations/global/collections/default_collection/dataStores/{DATA_STORE_ID}"

vertex_search_tool = Tool.from_retrieval(
    retrieval=grounding.Retrieval(
        source=grounding.VertexAISearch(datastore=data_store_path),
        disable_attribution=False # 帰属表示を有効にする
    )
)

# モデルを初期化
model = GenerativeModel("gemini-1.5-pro-001")

# グラウンディングを有効にしてプロンプトを送信
prompt = "当社の自動車利用規定について教えてください。"
response = model.generate_content(
    prompt,
    tools=[vertex_search_tool],
)

print(response.text)

応答の解析と引用元の表示

グラウンディングされた応答には、出典情報を含む grounding_metadata が含まれます。これを利用して、回答のどの部分がどのドキュメントに基づいているかを示すことができます。

Python

def print_grounding_citations(response):
    if not response.candidates.grounding_metadata:
        print("グラウンディングメタデータが見つかりません。")
        return

    metadata = response.candidates.grounding_metadata
    print("引用元:")
    for chunk in metadata.grounding_attributions:
        print(f" - URI: {chunk.web.uri}, Title: {chunk.web.title}")

# 上記のコードで得られたresponseオブジェクトを渡す
print_grounding_citations(response)

この機能により、ユーザーはAIの回答を鵜呑みにするのではなく、根拠となった一次情報源を直接確認でき、システム全体の透明性と信頼性が飛躍的に向上します。

GoogleがGemini APIの Tool という抽象化を通じてグラウンディング機能を提供している点は、単なる技術的な実装以上の意味を持ちます。これは、RAGという複雑なデータエンジニアリングの問題を、開発者にとっては簡単な設定項目へと転換させる戦略的な動きと解釈できます。

本番環境で利用可能なRAGシステムをゼロから構築するには、データ取り込みパイプラインの設計、埋め込みモデルの選定、ベクトルデータベースの管理、検索戦略(セマンティック検索やハイブリッド検索など)の実装、そしてプロンプトエンジニアリングの最適化といった、多岐にわたる専門知識が必要です。

しかし、Vertex AIのアプローチは、この複雑さの大部分を抽象化します。公開データの場合、Tool.from_google_search_retrieval() はわずか1行のコードです。プライベートデータの場合でも、Vertex AI Searchがデータの取り込み、チャンキング、埋め込み、インデックス作成を自動的に処理します。開発者が行うべきことは、API呼び出し時に DataStoreID を指定することだけです。これは、PineconeやWeaviateのような外部のベクトル検索サービスを個別に管理し、手動で統合する場合と比較して、複雑さを劇的に削減します。

この戦略的な決定は、Google Cloud上で強力なコンテキスト認識型AIアプリケーションを構築する際の開発速度と価値実現までの時間を大幅に短縮します。これは、Googleがモデルの品質(Gemini)だけでなく、エンタープライズアプリケーションにおけるエンドツーエンドの開発者体験においても競争優位性を確立しようとしていることを示唆しています。

追加)Geminiグラウンディングの技術仕様と制約事項

グラウンディング機能を最大限に活用するためには、その技術的な仕様と制약を正確に理解しておくことが重要です。

サポートされているモデル

Vertex AIでグラウンディングをサポートしている主要なGeminiモデルは以下の通りです。モデル選定は、アプリケーションの要件(レイテンシ、コスト、精度など)に応じて行う必要があります。

Table 2: グラウンディング対応Geminiモデル一覧

モデル名 (Model Name)主な特徴 (Key Characteristics)グラウンディングの最適なユースケース (Ideal Grounding Use Case)出典 (Source)
Gemini 2.5 Pro高度な思考と推論、マルチモーダル理解複雑な文書の深い読解と要約、専門的なQ&Aシステム
Gemini 2.5 Flash速度とコスト効率に最適化されたバランスモデルリアルタイムの顧客対応チャットボット、高速な社内ナレッジ検索
Gemini 2.0 Flash次世代機能、速度、リアルタイムストリーミング低レイテンシが求められるインタラクティブなアプリケーション
Gemini 2.5 Flash-Lite最もコスト効率が高く、高スループットをサポート大量のドキュメント要約や分類など、バッチ処理的なタスク

この表は、開発者が単にサポートされているモデルを知るだけでなく、自身のユースケースに最適なモデルを選択するための戦略的な判断材料となります。例えば、高スループットでコストを重視するバッチ処理アプリケーションを構築する場合、Gemini 2.5 Flash-LiteGemini 2.5 Proよりも適していることが一目でわかります。

料金体系の解説

グラウンディングを利用したアプリケーションのコストは、複数の要素から構成されます。予期せぬ請求を避けるため、全体の料金体系を理解しておくことが不可欠です。

Table 3: グラウンディング関連料金の概要

費用項目 (Cost Component)課金単位 (Billing Unit)概要 (Description)出典 (Source)
Grounding with Google Search1,000リクエストあたり一定の無料枠を超えると、APIリクエストごとに課金が発生します。料金はモデルによって異なりますが、例えばGemini 2.0 Flashでは1,500 RPD(Requests Per Day)の無料枠の後、$35/1,000リクエストとなります。
Vertex AI Search (データストア利用)GB/月 (データ保存) + 1,000クエリあたり (検索)独自データをVertex AI Searchに保存するためのストレージ料金と、検索クエリを実行する際の料金が別途発生します。
Gemini Model Usage100万トークンあたり (入力/出力)RAGによって拡張されたプロンプト(検索結果を含む)の入力トークン数と、モデルが生成した回答の出力トークン数に基づいて課金されます。

この詳細な内訳により、ソリューションアーキテクトは、予想されるクエリ数やデータ保存量に基づいて総所有コスト(TCO)を正確に見積もることが可能になります。これは、エンタープライズレベルでの予算策定と意思決定において極めて重要な情報です。

主な制約事項と注意点

  • クエリ制限: Grounding with Google Searchには1日あたりのクエリ数に上限が設定されています(例:100万クエリ/日)。これを超える利用が必要な場合は、Google Cloudサポートへの連絡が必要です。
  • データソースの言語: 初期バージョンでは、サポートされるデータソースの言語に制限がありました(例:英語、スペイン語、日本語)。最新のドキュメントで、対象言語のサポート状況を常に確認する必要があります。
  • レイテンシ: 検索(Retrieve)ステップは、応答生成プロセス全体に追加のレイテンシを発生させます。特に、カスタムの検索APIを利用する場合や、大規模なデータストアを検索する際には、検索システムのパフォーマンスが全体の応答速度に直接影響します。
  • データ品質への依存: グラウンディングされた応答の品質は、完全に検索された情報の品質に依存します。いわゆる「Garbage in, garbage out」の原則が適用され、知識ベースに誤った情報や古い情報が含まれている場合、LLMはその誤りを根拠として、自信を持って不正確な回答を生成してしまいます。

追加)エンタープライズにおけるグラウンディングの活用シナリオ

グラウンディング技術は、企業の様々な部門における課題を解決し、業務プロセスを革新する可能性を秘めています。以下に具体的な活用シナリオを挙げます。

カスタマーサポートの高度化

企業のナレッジベース、製品マニュアル、過去のサポートチケットなどを情報源としてグラウンディングさせたAIチャットボットを構築します。これにより、顧客からの問い合わせに対して、常に最新かつ正確な情報に基づいた回答を24時間365日提供できます。オペレーターは定型的な質問対応から解放され、より複雑で高度な問題解決に集中できるようになります。AIが回答の根拠として具体的なマニュアルのページ番号やナレッジベースの記事を引用することで、顧客の信頼感も向上します。

社内ナレッジマネジメントの革新

人事規定、ITサポートガイド、経理マニュアル、技術仕様書、過去の議事録など、社内に散在するあらゆるドキュメントをVertex AI Searchにインデックス化し、それを情報源とする社内向けAIアシスタントを構築します。従業員は「海外出張の経費精算はどのように申請しますか?」といった自然言語での質問を投げるだけで、関連規定を要約した回答と、参照すべきドキュメントへのリンクを即座に得ることができます。これにより、情報検索にかかる時間が大幅に削減され、全社的な生産性向上に貢献します。

セールス&マーケティングの効率化

CRMデータ、市場調査レポート、競合分析、製品仕様書などにグラウンディングさせることで、セールスおよびマーケティング活動をデータドリブンに自動化・効率化します。

  • セールス: 「顧客X社が抱える課題Zを、当社の新機能Yでどのように解決できるか焦点を当てた提案メールを作成して」といったプロンプトで、CRMに記録された商談メモや顧客情報を基に、パーソナライズされた提案コンテンツを瞬時に生成できます。
  • マーケティング: 「最新のQ3アナリストレポートを基に、我々の業界における主要トレンドについてのブログ記事を執筆して」と指示するだけで、外部の信頼できる情報源と社内データを組み合わせた、質の高いコンテンツを迅速に作成できます。

まとめ

本稿で詳述したように、グラウンディングは、生成AIを単なる目新しい技術から、信頼できるエンタープライズツールへと昇華させるために不可欠な基盤技術です。AIの応答を検証可能な情報源に結びつけることで、ハルシネーション、情報の鮮度、そして文脈の欠如という、生成AIが抱える根源的な課題に直接対処します。

Google Cloudは、Vertex AIを通じて、このグラウンディングを実装するための強力かつアクセスしやすい統合プラットフォームを提供しています。一般公開データに対してはGoogle検索を有効にするだけのシンプルな「スイッチ」、そして企業独自のプライベートデータに対してはVertex AI Searchを用いた包括的なRAGソリューションという、2つの強力な選択肢を用意することで、開発者は複雑なインフラ構築に頭を悩ませることなく、価値創出に集中できます。

グラウンディングによって、AIはもはや閉じた知識体系に依存するのではなく、組織が持つ生きたデータと対話し、それを基に推論する真のパートナーとなり得ます。本稿で紹介したチュートリアルを足がかりに、まずはご自身のデータで実験を開始し、グラウンディングが自社のビジネスにおけるどのような高価値な課題を解決できるか、その可能性を探求することをお勧めします。

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この記事を書いた人

林 雅志のアバター 林 雅志 株式会社Pepita CEO

株式会社Pepitaという会社にて、AIを活用したメディア運営支援・AI教育事業を展開しております。

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